荒野を駆ける風のように          



ガンドッグ 美しき狩人

06 2011

死臭の町

最近は、死臭が脳裏を離れない。 7月3日の朝、街中の10m先に太った猫を発見した。 100mほど歩いて近づくと傍の新聞店に入っていった。 その猫に付いて建物の中に入ったけれども、何処にもいない。 町にいると、いつも周囲にはコバエがいて、一種独特の臭いに 包まれている。嫌な予感がしたけれども、そっと二階へのドアを開けると、 胸から嗚咽がこみ上げて思わす扉を閉めた。 思い切って、もう一度開けて中を見ようとしたけれども、また吐きそうになり、再び扉を閉めた。 この強烈な臭いは、動物の死臭なのだ。 閉鎖された空間の...死臭は、とてもこの世の物とは思えない酷い臭いだ。 もう見るまでもない。建物に入るのを諦めた。 一時帰宅で、戻った住人は、はたしてこのドアを開けて入るだろうか。 殆どの人には、無理な気がする。 自分が置き去りにしたペットが、無残な姿になり、ウジ虫に食い尽くされ た後でも、その匂いは消えることはない。 そして、猫たちは死骸を食って生き延びている。 帰り道、首都高速に入りビル街を見るとほっとする。 あの町と比べて、なんと空気がさわやかな事だろう。 ネオンが綺麗で、立ち並ぶ高層ビル。 車の窓を全開にして、空気を入れ替える。 まるで、別世界だ。 原発の恩恵で、この清潔できれいな街があり、 その犠牲として、あの死臭の町がある。 また、来週も行かなくてはいけない。 あの死臭の町に・・。 本音で言えば、もう行きたくない。 この数か月は、数えられないほどの死骸を見て、 数えられないほどの写真を撮り、 数えられないほど泣いてきた。 この気持ち悪さは、行ったものにしかわからない。 何が私をその気にさせるのか、 行った皆が泣いている。 もう1000回以上も泣いた。 こんなに泣いたことは、人世で一度もなかった。 「インターネットを見て電話しました。お願いです、私の犬がまだ生きているって瓦礫作業の人に聞きました。どうかプータを助けてください。」 「よし分かったよ。必ず明日行って助けるから安心しなさい」 津波に襲われた原発傍の浜で、その犬は生きていた。 瓦礫整理の自衛隊員や作業者がこの犬に餌を与え続けてくれたのだろう。 夕暮れにその住所にたどり着き、 「プータ、迎えに来たよー」と叫ぶ。 その瞬間、家の正面から、犬が駆け出してこっちに向かってきた。 お前がプータか、よく頑張ったな。 私は、その20キロもある秋田県の雑種を車に載せて帰る。 犬は、その巨体で私に圧し掛かり離れようとしない。 翌日、会津の避難住宅から郡山まで、 家族総出ででプータに会いに来た。 娘が、父が泣いている。祖母が皆で泣いている。 生後2週間から7年間一緒にいた家族にやっと会えたのだ。 瓦礫整理も終わり、もう誰も来なくなった家で、家の裏庭から原子力発電所が傍に見える。 プータは飼い主の迎えを信じて3月半ここで生き延びた。 そして、絶対助かるはずのないプータという命が救えたという事。 この喜びがある限り、私は仲間とともに、相変わらず福島に向かう。 そして、いつか行かなくてすむ日が来ることを信じて、あの死臭の 町を、畑を、山を、海岸を、探し続ける。 この家族は、プータを郡山の動物病院に預ける。 「毎週会いに来るから、プータまた会いに来るからね」としばしの別れ、 もう二度と住むことが無いだろう家、いつまで続くか分からない避難 住宅での暮らし、福島の住人は生まれ故郷を失いながらも、必死に生きている。
作成:: 星 広志

Posted by kayosama | 20:35 | Comment [0] | TrackBack [0] | その他

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